東京高等裁判所 昭和36年(行ナ)69号 判決
参加申出人らのうち三菱化成工業株式会社が特許異議の申立をしたとの点を除き、参加申出人ら主張の参加の理由第(一)、(二)項の事実が疏明される。
ところで、原告の本件分割出願にかかる発明は、その特許請求の範囲に記載されているとおり、「結昌化度が少くとも四〇%で高度に透明であることを特徴とする、配向されたポリエチレンテレフタール酸エステル薄膜を包含する有機重合体薄膜」であり、一方、参加申出人らが特許第二〇三〇四五号発明の通常実施権またはその再実施権を有し、これにより業として製造販売しまたは製造販売しようとしているものもポリエチレンテレフタール酸エステル薄膜であること、もともと、特許権者は、業として特許発明の実施をする権利を専有し、何人に対してであれ、正当の権原にもとづかない他人の業としての実施について差止を請求したり、不当利得の返還や損害賠償を請求したりすることができる強い対世的な権利を有するのであり、しかも、その権利の内容は、自然法則を利用し創作された高度の技術的思想そのものにかかり、一般の物権のように現に存する特定の不動産や動産を目的としいわば空間的に限定されたものとは著しく異なるから、特許にかかる権利が成立すれば、業としてその実施をしまたはしようとするすべての者に対し、直接右の強い効力を及ぼしうることとなること、以上によれば、参加申出人らは、原告の本願発明についての特許の成否により直接その特許実施権者または再実施権者としての法律上の地位に影響を生ずべき関係にあるものといわなければならないこと、なお、参加申出人東洋レーヨン株式会社、同帝国人造絹糸株式会社は、本願発明について特許異議申立人として、審判手続に関与してその法律上の関係の確定を具体的にはかつて来たものであり、同三菱化成工業株式会社は、右帝国人造絹糸株式会社から前示のとおり再実施権の設定を受けているものであることを考え合わせるときは、参加申出人らは、いずれも、原告の本願発明についての特許の成否にかかる本件審決取消訴訟の結果、いいかえれば被告の敗訴につき民事訴訟法第六四条の定める利害関係を有するものというに十分である。
よつて、本件訴訟において被告を補助するためにした参加申出人らの本件申出は、相当であり理由があるから、その参加を許すこととする。
一 参加の趣旨および理由の要旨
(一) 原告は、一九五二年(昭和二七年)五月一二日にアメリカ合衆国にした特許出願にもとづき優先権を主張して昭和二八年五月一一日日本の特許庁に対し「改良された物理的性質を有するポリエチレンテレフタール酸エステル薄膜の製法」について特許出願(昭和二八年特許願第八三八五号)をし、昭和二九年一二月六日これを分割し、ポリエチレンテレフタール酸薄膜」について分割特許出願(昭和二九年特許願第二六六〇二号)をした。この分割出願については、昭和三〇年一二月二二日拒絶査定がされたが、原告からの抗告審判の請求の結果、昭和三四年四月九日出願公告がされるにいたつた。そこで、参加申出人らは、出願公告期間中特許異議の申立をし、昭和三六年二月一一日、特許異議の決定がされるとともに、原告の右抗告審判の請求は成り立たないとの審決がされた。原告は、この審決を違法としその取消を求めるため、特許庁を被告として本訴請求に及んでいるものである。なお、原告の本件分割出願の発明については、特許請求の範囲が「結昌化度が少くとも四〇%で高度に透明であることを特徴とする、配向されたポリエチレンテレフタール酸エステル薄膜を包含する有機重合体薄膜」とされている。
(二) けれども、参加申出人東洋レーヨン株式会社および同帝国人造絹糸株式会社は、いずれも英国のゼ・カリコ・プランターズ・アソシエーシヨン・リミテツドの有する特許第二〇三〇四五号にかかる「HO(CHスモール2)nOH系グリコールをテレフタール酸又はテレフタール酸の低級脂肪族エステルと反応させ、反応生成物を加熱して高重合された状態のエステルとすることを特徴とする高重合結昌性又は高重合微昌性物質の製造法」の発明(一九四一年七月二九日英国にした特許出願にもとづいて昭和二五年二月二五日日本で特許出願された。)について通常実施権を有しており,東洋レーヨン株式会社はこの実施権にもとづいてポリエチレン・テレフタレート・フイルムを現に業として製造販売しているし、帝国人造絹糸株式会社は現在右フイルムを製造していないが、右実施権にもとづいて将来これを業として製造販売しようと意図している。また、参加申出人三菱化成工業株式会社は、同帝国人造絹糸株式会社から右実施権の再実施の許諾を得て、現にポリエチレン・テレフタレート・フイルムを業として製造販売している。なお、右特許発明は、高重合物質の製造方法に関するもので、ポリエチレン・テレフタレートもその製品の一種であり、このポリエチレン・テレフタレートはフイルムおよび繊維の原料として使用しうるものである。
(三) 右のとおり、参加申出人らは、いずれもポリエチレン・テレフタレート・フイルムを現に製造販売しあるいは製造販売しようとしているものであつて、前記特許異議の申立人でもあり、本願発明のように単にフイルムの品質や検査基準を規定したような再現性のないしたがつて特許要件を具備しないフイルムの特許の成否、ひいては、本件訴訟の結果が参加申出人らの権利行使に重大な利害関係を有することは明らかであるから、被告を補助するため、訴訟参加の申出に及んだものである。
二 原告の陳述
(一) 本件各補助参加の申出を却下するとの裁判を求める。
(二) 参加申出人ら主張の事実をもつてしては、ことに参加申出人らが特許異議の申立人であるとしてもこの異議は何人でも申し立てられるものであり、いまだ、本件訴訟の結果について法律上の利害関係を有するものとはいえない。したがつて、本件補助参加の申出は、その要件を具備していない。なお、参加申出人三菱化成工業株式会社については、特許異議の申立をした事実さえない。